僕が君の世界を壊したとしても
我慢
これは仕方ない。
いつもそう言い聞かせている。
上履きに落書きされるくらいましなほう。
下駄箱の反対側から笑い声とひそひそ声が聞こえたって反応しても意味なんかない。ただ、ぐっと気持ちを抑えてなにもなかったように上履きをはくだけ。
雲一つない真夏の空は僕と反対に、まぶしいくらいに光をあてて、下駄箱を明るく照らす。
「ねぇねぇ、あの子だよ。」
「うわぁ、可哀想だけどしかたないよね。」
毎日聞く言葉を今日も聞く。
同情なんかは嫌いだ。
僕も昔は友達がちゃんといた。だけど、アレをきっかけにみんな離れていった。
僕は悪くないって言ってくれる人もいた。だけど、助けてくれたりはみんなしてくれなかった。
それで、気づいたんだ。友達なんか本当はいなかったんだって。
僕たち家族はいつだって、非難、暴言、嫌がらせをうけている。
我慢の毎日。
今日は運のいいほう。悪い日は迷惑電話、脅迫状、屋上から突き飛ばされそうになったこともある。
感覚がおかしくなっていく。それは自分でもわかっている。だけど、ただの人形みたいに何も感じない、何も思わなくなってしまう。
助けて、僕は関係ない。その一言が言えない。
仕方ないで、終わらせてしまう自分がいる。
教室からは清々しい笑い声、話し声が聞こえる。
僕が教室に入れば、一瞬空気が凍りついたようになって、ひそひそ話が始まる。
「うわ、また来たよ。よく学校来れんな。」
「感情がないんじゃない?あんな両親の息子なんだから。」
いつものように席に座ると、強烈な痛みを感じた。
「ぷっ。」っと、笑う声がきこえてくる。
椅子をよく見ると画鋲が五、六個落ちていた。
「みてみて、全然反応してない。薄気味悪い。」
違う。逆に僕が泣いたり反応したら、なにか変わるのか?
なにも変わらないなら何も反応したくない。一つ一つ反応したらこころがこころが心がいくつあっても足りないから。
なにも、反応したくない。傷つくくらいなら人形みたいのほうがいい。そう思っていたのに。
ふと、隣を見ると、今まで机なんかなかったのに、一つ席が増えていた。だけど、別にどうでもいいし、興味もなかったので、無視して本を読むことにした。
本を読むのは好きだった。本を読んでいると自分の世界に入るため周りの視線が入ってこなくなる。だから、人形にならずに傷つかないでいられるこの時間は、僕にとってかなり大切なものだ。
キーンコーンカーンコーン…
この音は僕を現実に連れ戻す。
ふと、前を見ると、見たことがない女子が黒板の前で立っていた。
「今日から、転校してきた宮本さんだ。みんな仲良くするように。」
「今日から転校してきた、宮本 理絵です。よろしくお願いします。」
「えーと、宮本の席はあそこの空いてる席だ。」
きっと可哀想っていう言葉が飛び交うんだろうなと思っていると、案の定可哀想という言葉が飛び交った。
「よろしくね。」
彼女のその声を聞いてとりあえず返事をしようとすると、声が出なかった。
彼女は口だけ動いてるのを見て不思議そうにしてる。
なんとか、振り絞って、震える小さな声で、
「よろしく…。」、とだけ言えた。
「ねえねえ、名前なんて言うの?」
さっき話せたせいか、少しだけ大きな声で言えた。
「琉衣…、立花 琉衣。」
「へぇー。かっこいい名前だね。」
彼女は満足したように授業用のノートなどを出し始めた。
僕はさっきとっさに声が出なかったことを考えて、いつまで声が出ていたか思い出そうとしても思い出せなかった。
よくよく考えてみたら家族以外と話すことはアレからほとんどなかった。
「重症だな。」心のなかで呟き、思わず苦笑いしてしまう。
「あのー。」
隣からまた彼女の声が聞こえてきた。
「教科書まだ揃ってないから見せてくれない?」
そういえばそうかと思い彼女に教科書一式を渡す。
「え?席くっつけて二人で見るんじゃないの?」
避けられるのが普通だったから、そうしたのか、その考えを忘れてしまったのか。まぁきっと後者だろう。
席をくっつけるとまた、
「うわぁ。可哀想。」
「教科書だけじゃなくて席までなんて…。」
ひそひそ僕の悪口を言う声が聞こえてくる。
「あれって私たちのことを言ってるの?」
彼女が少し不安そうな顔で聞いてくるので、
「違うから大丈夫だよ。」
彼女を巻き込むの違うので、不安にさせないために笑って答えた。
「うん。そっか…。」
彼女はまだ不安そうにしている。
彼女にいじめの矢がいかなければいいが。
授業の時間はさすがに先生がいるため大きな嫌がらせはないと思うが…。
彼女が不安にならないためにもなるべく、彼女の前でいじめられてるのは見せてはいけないな。
「ねぇねぇ?」
だんだん声もでてくるようになってきた。
「うん?」
「この問題わかる?」
「あぁこれはxを移行して、こうするとできるよ。」
「ありがとうー。頭いいんだね。」
「あ、ありがと…。」
誰かにお礼を言われたり誉められるのは久しぶりなのでなんか照れくさくなった。
「耳赤いよ。」
「な!?」
彼女は笑っていて、なんか恥ずかしさもでてきた。
「ごめんごめん。」
彼女は謝りながら笑っていて、こんなことは久しぶりでなんだか不思議な気持ちになってきた。
「ふふ、ちゃんと笑えんじゃん。」
「え?」
「あんたの笑顔作り笑いっぽいっていうか偽物っぽい。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
なら、余計に心配させてしまったのかもしれない。
キーンコーンカーンコーン…
授業の終わりを告げる音がなる。
本をまた出して読み始める。
今日は早く帰ろう。もうばれてるかもしれないけど、なるべく見せない方がいいだろう。
放課後…
放課後のチャイムがなり、先生が教室からでていく。
そのとたん、クスクス笑う声が教室に響く。伝染するようにあっち、こっちから、笑い声が聞こえてきて、
合唱のようになった。
不味いなと思い、急いで教室から出ようとする、ビチャッと、濡れてるものが当たった音がなり、頭に当たったなにかがずるッと床に落ちる。
よく見ると雑巾が落ちていて、さらにもうひとつ投げつけられた。
「さっすが、野球部のエースいい腕してるねぇ。」
「あったりまえだろ。」
そうすると、笑いながら雑巾がどんどんどんどん投げられてくる。
何も感じなかった。感じるだけ無駄だから、ただ雑巾が投げられてくる中心にたっていた。
「あー、楽しかった。雑巾片付けとけよ。」
雑巾を拾うとビチャッとした感触が手に伝わってくる。水がたれてくる。
さっきまでの、笑い声と変わって、静かな教室に、夕日の光が入ってるだけの空間があった。
ふと見ると、彼女がその空間に立っていた。
なんとも言えない顔をして、雑巾を拾い、流し台で雑巾を絞っている。
手伝ってくれるのは助かるのでとくに言葉も交わさず、たんたんと雑巾を絞っていた。
すべて雑巾を絞り終えると、彼女が今だと思ったのか口を開いた。
「あんなこと、されてなんとも思わないの?」
「え?」
「助けてとか、怒ったり、なんでしないのって言ってるの!」
「だって…。」
「だって、じゃない。私が助けるからもう止めてって言おうよ。」
「ごめん。もう、僕本当に君と話したくない。帰るね。また明日。」
「え?ちょっと待ってよ。」
全力で家に帰った。
彼女は言葉は純粋に嬉しかった。僕の周りには助けようとしてくれる人はいなかったから。
でも、この後どうなるかわかっていた。みんなアレを知ったら離れていった。
そんな思いもうしたくない。そんな思いするくらいなら、誰とも関わらず人形みたいでいる方がいい。
つらくたって、何も思わなければいいんだよ。
それに気づいたら、世界が楽になった。
大丈夫。僕は大丈夫っていう安心感がうまれた。
僕は僕を守らなければならないのだから。
自分を守れるのは自分だけだから。
帰り道に近所の人に笑われたって気にしなければいい。期待する方が間違ってるのだ。
茜色に染まっていた道がだんだん黒くなっていく。僕は足を早めて帰路を進んだ。
相変わらず、外にはゴミ、壁には落書き、もう見慣れてきた光景がある。
あとで掃除しないといけないなと思いながら玄関の扉をあける。
「ただいま。」
いつも通り和室の扉をあける。
「おかえり。瑠衣。いつもごめんねぇ。高校生だから遊びたいよねぇ。」
「大丈夫だよ。」
ボケてしまっているおばあちゃんと毎日同じ話をするのが習慣になっていた。
「今日は柔らかいものにするからな。ゆっくり寝ててね。」
「すまないねぇ。いつも。」
「大丈夫だよ。」と優しく微笑んで僕はスーパーに買い物に向かった。
いつもそう言い聞かせている。
上履きに落書きされるくらいましなほう。
下駄箱の反対側から笑い声とひそひそ声が聞こえたって反応しても意味なんかない。ただ、ぐっと気持ちを抑えてなにもなかったように上履きをはくだけ。
雲一つない真夏の空は僕と反対に、まぶしいくらいに光をあてて、下駄箱を明るく照らす。
「ねぇねぇ、あの子だよ。」
「うわぁ、可哀想だけどしかたないよね。」
毎日聞く言葉を今日も聞く。
同情なんかは嫌いだ。
僕も昔は友達がちゃんといた。だけど、アレをきっかけにみんな離れていった。
僕は悪くないって言ってくれる人もいた。だけど、助けてくれたりはみんなしてくれなかった。
それで、気づいたんだ。友達なんか本当はいなかったんだって。
僕たち家族はいつだって、非難、暴言、嫌がらせをうけている。
我慢の毎日。
今日は運のいいほう。悪い日は迷惑電話、脅迫状、屋上から突き飛ばされそうになったこともある。
感覚がおかしくなっていく。それは自分でもわかっている。だけど、ただの人形みたいに何も感じない、何も思わなくなってしまう。
助けて、僕は関係ない。その一言が言えない。
仕方ないで、終わらせてしまう自分がいる。
教室からは清々しい笑い声、話し声が聞こえる。
僕が教室に入れば、一瞬空気が凍りついたようになって、ひそひそ話が始まる。
「うわ、また来たよ。よく学校来れんな。」
「感情がないんじゃない?あんな両親の息子なんだから。」
いつものように席に座ると、強烈な痛みを感じた。
「ぷっ。」っと、笑う声がきこえてくる。
椅子をよく見ると画鋲が五、六個落ちていた。
「みてみて、全然反応してない。薄気味悪い。」
違う。逆に僕が泣いたり反応したら、なにか変わるのか?
なにも変わらないなら何も反応したくない。一つ一つ反応したらこころがこころが心がいくつあっても足りないから。
なにも、反応したくない。傷つくくらいなら人形みたいのほうがいい。そう思っていたのに。
ふと、隣を見ると、今まで机なんかなかったのに、一つ席が増えていた。だけど、別にどうでもいいし、興味もなかったので、無視して本を読むことにした。
本を読むのは好きだった。本を読んでいると自分の世界に入るため周りの視線が入ってこなくなる。だから、人形にならずに傷つかないでいられるこの時間は、僕にとってかなり大切なものだ。
キーンコーンカーンコーン…
この音は僕を現実に連れ戻す。
ふと、前を見ると、見たことがない女子が黒板の前で立っていた。
「今日から、転校してきた宮本さんだ。みんな仲良くするように。」
「今日から転校してきた、宮本 理絵です。よろしくお願いします。」
「えーと、宮本の席はあそこの空いてる席だ。」
きっと可哀想っていう言葉が飛び交うんだろうなと思っていると、案の定可哀想という言葉が飛び交った。
「よろしくね。」
彼女のその声を聞いてとりあえず返事をしようとすると、声が出なかった。
彼女は口だけ動いてるのを見て不思議そうにしてる。
なんとか、振り絞って、震える小さな声で、
「よろしく…。」、とだけ言えた。
「ねえねえ、名前なんて言うの?」
さっき話せたせいか、少しだけ大きな声で言えた。
「琉衣…、立花 琉衣。」
「へぇー。かっこいい名前だね。」
彼女は満足したように授業用のノートなどを出し始めた。
僕はさっきとっさに声が出なかったことを考えて、いつまで声が出ていたか思い出そうとしても思い出せなかった。
よくよく考えてみたら家族以外と話すことはアレからほとんどなかった。
「重症だな。」心のなかで呟き、思わず苦笑いしてしまう。
「あのー。」
隣からまた彼女の声が聞こえてきた。
「教科書まだ揃ってないから見せてくれない?」
そういえばそうかと思い彼女に教科書一式を渡す。
「え?席くっつけて二人で見るんじゃないの?」
避けられるのが普通だったから、そうしたのか、その考えを忘れてしまったのか。まぁきっと後者だろう。
席をくっつけるとまた、
「うわぁ。可哀想。」
「教科書だけじゃなくて席までなんて…。」
ひそひそ僕の悪口を言う声が聞こえてくる。
「あれって私たちのことを言ってるの?」
彼女が少し不安そうな顔で聞いてくるので、
「違うから大丈夫だよ。」
彼女を巻き込むの違うので、不安にさせないために笑って答えた。
「うん。そっか…。」
彼女はまだ不安そうにしている。
彼女にいじめの矢がいかなければいいが。
授業の時間はさすがに先生がいるため大きな嫌がらせはないと思うが…。
彼女が不安にならないためにもなるべく、彼女の前でいじめられてるのは見せてはいけないな。
「ねぇねぇ?」
だんだん声もでてくるようになってきた。
「うん?」
「この問題わかる?」
「あぁこれはxを移行して、こうするとできるよ。」
「ありがとうー。頭いいんだね。」
「あ、ありがと…。」
誰かにお礼を言われたり誉められるのは久しぶりなのでなんか照れくさくなった。
「耳赤いよ。」
「な!?」
彼女は笑っていて、なんか恥ずかしさもでてきた。
「ごめんごめん。」
彼女は謝りながら笑っていて、こんなことは久しぶりでなんだか不思議な気持ちになってきた。
「ふふ、ちゃんと笑えんじゃん。」
「え?」
「あんたの笑顔作り笑いっぽいっていうか偽物っぽい。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
なら、余計に心配させてしまったのかもしれない。
キーンコーンカーンコーン…
授業の終わりを告げる音がなる。
本をまた出して読み始める。
今日は早く帰ろう。もうばれてるかもしれないけど、なるべく見せない方がいいだろう。
放課後…
放課後のチャイムがなり、先生が教室からでていく。
そのとたん、クスクス笑う声が教室に響く。伝染するようにあっち、こっちから、笑い声が聞こえてきて、
合唱のようになった。
不味いなと思い、急いで教室から出ようとする、ビチャッと、濡れてるものが当たった音がなり、頭に当たったなにかがずるッと床に落ちる。
よく見ると雑巾が落ちていて、さらにもうひとつ投げつけられた。
「さっすが、野球部のエースいい腕してるねぇ。」
「あったりまえだろ。」
そうすると、笑いながら雑巾がどんどんどんどん投げられてくる。
何も感じなかった。感じるだけ無駄だから、ただ雑巾が投げられてくる中心にたっていた。
「あー、楽しかった。雑巾片付けとけよ。」
雑巾を拾うとビチャッとした感触が手に伝わってくる。水がたれてくる。
さっきまでの、笑い声と変わって、静かな教室に、夕日の光が入ってるだけの空間があった。
ふと見ると、彼女がその空間に立っていた。
なんとも言えない顔をして、雑巾を拾い、流し台で雑巾を絞っている。
手伝ってくれるのは助かるのでとくに言葉も交わさず、たんたんと雑巾を絞っていた。
すべて雑巾を絞り終えると、彼女が今だと思ったのか口を開いた。
「あんなこと、されてなんとも思わないの?」
「え?」
「助けてとか、怒ったり、なんでしないのって言ってるの!」
「だって…。」
「だって、じゃない。私が助けるからもう止めてって言おうよ。」
「ごめん。もう、僕本当に君と話したくない。帰るね。また明日。」
「え?ちょっと待ってよ。」
全力で家に帰った。
彼女は言葉は純粋に嬉しかった。僕の周りには助けようとしてくれる人はいなかったから。
でも、この後どうなるかわかっていた。みんなアレを知ったら離れていった。
そんな思いもうしたくない。そんな思いするくらいなら、誰とも関わらず人形みたいでいる方がいい。
つらくたって、何も思わなければいいんだよ。
それに気づいたら、世界が楽になった。
大丈夫。僕は大丈夫っていう安心感がうまれた。
僕は僕を守らなければならないのだから。
自分を守れるのは自分だけだから。
帰り道に近所の人に笑われたって気にしなければいい。期待する方が間違ってるのだ。
茜色に染まっていた道がだんだん黒くなっていく。僕は足を早めて帰路を進んだ。
相変わらず、外にはゴミ、壁には落書き、もう見慣れてきた光景がある。
あとで掃除しないといけないなと思いながら玄関の扉をあける。
「ただいま。」
いつも通り和室の扉をあける。
「おかえり。瑠衣。いつもごめんねぇ。高校生だから遊びたいよねぇ。」
「大丈夫だよ。」
ボケてしまっているおばあちゃんと毎日同じ話をするのが習慣になっていた。
「今日は柔らかいものにするからな。ゆっくり寝ててね。」
「すまないねぇ。いつも。」
「大丈夫だよ。」と優しく微笑んで僕はスーパーに買い物に向かった。
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