僕が君の世界を壊したとしても

期待

スーパーではいつもと同じようにマスクをして、入るようにしている。

あまり、意味はないかもしれないが多少はましになるしバレないことも少なくない。

いつもの食材を見ていると、自分の名前を呼ぶ聴いたことのある声がした。

案の定振り返ると彼女がいた。

「ねぇねぇ。最近こっちに引っ越してきたんだけどこのスーパーって安い?立ば…??」

急に手で口を押さえたから、変なやつみたいだがここで自分の名前を呼ばれるわけにはいかない。

「ここでは、僕の名前を話すないいか。」

彼女が必死に頭をぶんぶん上下させるので手を離すと、「ぷはあっ。」っと、まるでサラリーマンがビールを飲んだ時のような声を出した。

「名前呼ばれたくないのはわかったけど、そんなに強くやったら息できないよー。」

「鼻でできるだろ?」

「ぐぬぬ。」

「もう、そこはご・め・ん・ね・でしょ?もう。」

ふっと、ふいに笑みがこぼれた。

おかしい。彼女はまるで子供のような言い方、考え方だ。もう、高校一年生なのに。

「あっ。バカにしたでしょ?」

「俺は買い物終わったからじゃあ、…?!」

レジに向かって歩き出そうとすると彼女にがっしり手を掴まれた。

「名前で呼んでないんだからお礼として、わたしの荷物持ちしてよ。」

「…は?」

あまりにも勝手な自論に思わず吹き出してしまった。今日はなんだかおかしい。

「よーし。それじゃあ、頑張って持ってね。」

彼女は遠慮などせず、がっつり食材を買って、僕に運ばせる。

彼女ならもしかしたら僕の秘密を知ってもこのままでいてくれるかも。そんな淡い期待を抱いたがすぐに消した。

ふと見上げた空はところどころ曇っていて、星がポツンとポツンと不安そうに光っていた。

彼女の家は少し小さなアパートで家族で暮らすにはかなり狭そうだ。

「どうせ、狭いとか思ってんでしょ。一人暮らしだとこれくらいでちょうどいいの。」

「僕の考えてることよくわかるね。」

「だって顔にでてるし琉衣の考えてることは単純だからねぇ。」

僕は彼女が怖くなった、彼女の前ではどんな嘘も見破られてしまう。彼女の前では彼女にも自分にも嘘をつけない。

「なに考えてんの?女の子の部屋で舞い上がってんの?」

「冗談はやめてくれ、どうせなに考えてたのか予想ついてるんだろ?」

「えー、やたら真剣な顔して考えてるからそうだと思ったのに。あ、買ったものはそこに置いといて、運んでくれてありがとね。」

「それじゃあね。」

「あ、ちょっと待った。どうせ、もうここには来ないとか思ってるでしょ。私こっち来てから友だちいないの。だから、また来てね。」

図星だった。もう、彼女とは関わらないようにしようとしていたところだった。

「ねぇ、君はカウンセラーにでもなるの?人の気持ちがそんなにわかるから。」

「面白いことを言うね。うーん、確かにいいかもね。でも、人の気持ちがわかるんじゃなくて想像してるんだよ。琉衣にもきっとできるよ。」

果たして心を捨てた僕にそんなことが出来るのだろうか。





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