大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
何が頑張れよ、だ。
笑っちゃう…奏だって本当の恋なんてできないくせに!
何が、私に出会えたから本当の恋を知ったよ。
嘘ばっかり…
今だに、奏のスマホには何人もの女性から電話がかかってきているのに…
じとーっと奏を見ているとなんだ?と首を傾げ、人前でバカな事を言う。
「キスしてほしいのか?」
思わずバシッと奏の背を叩いてやった。
痛がる奏に、フンと鼻息荒くしていると、まだいた男が苦笑い。
「本当に、いい男が尻に敷かれてるんだな」
「まぁな…」
「尻に敷いてないし」
「照れるな!真っ赤になって可愛い奴」
もう、どこからこの甘さが出てくるんだ?
もう、いっそのこと嘘ですと暴露したい。
「やっぱ俺も伊東さんのような彼女がいいな…彼が嫌になったら俺のとこおいでよ。じゃあ、また会社で」
散々、引っ掻き回して、何もなかったように帰って行く男の背に奏は独り言ちる。
「ぜってー行かせね…」
やっぱり、最近の奏はおかしい!
「もう、あっち行ったからお芝居しなくていいよ。付き合ってくれてありがとう。助かった」
「最近、一緒にいすぎて油断してたわ。お前、本当に綺麗になってきたよな」
不機嫌さを隠さない奏の指が、私の頬をなぞっていた。