大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

奏は通りかかったタクシーを止めて、後部座席に乗り家の住所を言った後、運転手がいるというのに繋いでた手の甲を指先で何度もなぞる。

くすぐったいような、どこか甘い疼きが肌を伝う。

ちらっと彼を見れば、こちらの視線に気がついて反対の手で、頬をなぞる指、そして、唇を指先がなぞりながら顎でしゃくり、何度も口を開くよう催促するのだ。

この時の私は酔っているからとしか思えない。
後で思い出して恥ずかしくなるのだが、唇をうっすらと開けて彼の指にキスしていた。

満足した男は、妖艶に微笑み耳元で囁く。

「色っぽくてたまらない…早く抱きたいよ」

耳にかかる吐息に、こちらもスイッチが入る。

タクシーが止まり、会計を済ませると2人は急かすように歩いた。

マンションのロックももどかしい。

エレベーターが降りて来るのももどかしい。

やっと、降りてきた箱に乗り込んでドアが閉まるか閉まらないうちに階を押した男に腰を抱かれて見つめられる。

私も、荷物を落とし彼の首に手を絡め見つめた。

お互いの顔が近くなる…

その時、ドアが開きその階の住人が頬を赤らめ退いて行く。

『失礼しました』

ドアが閉まって、お互いふふふと笑った。
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