大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
奏side 曖昧だけど
菜生を抱くのは初めてじゃないのに、やばいぐらいドキドキしている…
頬を染め潤んだ目で『キスの続きは後でって言ったじゃない』なんて言いやがる。
無言の帰り道を手を繋ぎながら、キスしたい…抱きしめたい…あの肌に触れたい、そして、彼女の甘い吐息を感じたいと思っていても、いろいろと自覚してしまった後では、手を繋ぐのが精一杯でいる。
散々、健の代わりに慰めてやるといいながら、抱かせろとか抱いてやるとか偉そうにしていたのに、これ以上、嫌われたくない理由で手を出せないなんておかしな話だと自笑するほど、手を出す事にびびっている。
このまま何もせずに帰ろうとしていたのに、菜生の言葉と態度は、一瞬で欲望を掻き立て気がついたら、彼女は玄関先でバランスを崩して床に倒れ、俺は彼女の上から跨いがっていた。
ネクタイを緩め、乱れた前髪が邪魔でかき揚げる。
「これからはお前以外の女は抱かない。だからお前もそのつもりで抱かれろ。…健なんて忘れさせてやる」
自覚した俺の本心だった。
もう、菜生の代わりに女を抱くなんてできない。
お前しかいらないから、お前も俺を見てくれよ…
健なんかじゃなく、俺を見ろ…
お前を抱くのは、健じゃないってわからせてやる。