大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
奏side 素直にさせるのは難しい
狭いベッドで、胸に頬ずりして擦り寄り甘えてくる菜生が愛しくて、ぎゅっと抱きしめる。
「動くなよ。髪の毛がくすぐったい」
「…苦しいって」
文句を言って離れようとするから、慌ててひきよせた。
「寒いんだから、もっとくっついてろ」
「そうだね…奏とくっついてると暖かいから好き」
こうでも言わないと、菜生は素直になってくれないのがもどかしい。
「俺も、お前とくっついて寝るの好き」
好きの前に必ず何か言葉を足して、好きと言ってくれるだけ前進したと思う。
前は、好きなんて言葉を聞いた事もなく、嫌いとかバカとか、女誑しとか…毛嫌いされていた。
こうして、菜生を抱いて寝るなんてあの頃の俺は想像できなかっただろう。
しばらくして、寝息を立て寝たふりをするのが、最近の俺の楽しみになっている。
俺を起こさないように顔だけを動かして寝ているか確認した後、菜生が俺の頬を手のひらでなぞり、彼女からキスをしてきてくれるからだ。
「…すきよ」
そして、切ない声で必ず言ってくれる。
素直になれない彼女なりの、精一杯の告白に気がついたのは偶然だったけど、毎回ながら、嬉しくてにやけてしまう。
タヌキ寝入りがバレたら、こんな素直な菜生をもう見ることができない気がして、寝ぼけたふりをしてポンポンポンと三回背中を叩く。