大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
奏side 回想
晴れの喜ばしい日に、今にも涙を流してしまうんじゃないかと思うほど、悲しい表情を浮かべる女。
伊藤 菜生…
彼女の周囲には、親友の結婚式に歓喜して涙を堪えているようにしか見えないだろうけど、俺だけが彼女の秘密を知っている。
新婦の智奈美の横で、彼女を優しく包み込み見つめる新郎、健にずっと恋していた。
知ったきっかけは些細なことで、何だったか思い出せないが、菜生に出会ってすぐに気がついた。
親友の男に恋するなんて馬鹿な女だと…
男なんてそこら中にいるのに、1人の男しか見えてない。
俺なんて、くるもの拒まず去る者追わずの恋愛しかしてこなかった俺は、一夜だけの関係の女も少なくない。
恋愛なんて面倒で、女の機嫌一つでその日が左右される。
だからといって、機嫌をとるのも面倒で別れ話はいつも女からだった。
別れても、次の女がいたからその女に執着なんてしない。
誰が見ても、サイテーのクソ野郎だと思う。
だからか、叶わない恋に恋する一途な彼女が新鮮だった。
ここだけの話、健だって今の彼女、もう嫁だが智奈美ちゃんに出会うまでは、女関係はだらしなかった。
彼女には、サイテーな学生時代なんて教えられないと俺に口止めするほど、溺愛。