大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
なっ、と私の肩を抱く奏に、智奈美は不機嫌に顔をしかめる。
「いくら菜生と長い付き合いだからって、彼女の前でそれはよくないよ」
「彼女?俺の彼女はこいつだけしかいないけど、誰のこと言ってるんだ?」
結衣さんの話を聞いていなければ、心から喜んでいただろうけど、薄っぺらく聞こえる。
「だから、奏くんの彼女は結衣さんで、菜生じゃないでしょう。菜生にはちゃんと彼氏がいるんだから、今までのように菜生を揶揄うのやめてよ」
ほら…と、智奈美に隠れていた彼女の背を押して、奏の前に立たせる智奈美
「だれ?」
「ふざけないでよ。結衣さんだよ」
「ゆい?あー、いつも俺の会社の前で待ち伏せていた女か」
「ひどい…奏さんが忙しくしてるから、私から会いに会社まで行かないと会えないのを我慢してるのに、…諦めの悪い方がいるせいで、私とまだ堂々と付き合えないってわかってますけど、そんな言い方ひどいわ」
今にも泣きそうな結衣さんの肩を抱いた智奈美は、奏を睨んでいる。
「奏くん、彼女に謝って…そして早く女性関係を整理してあげてよ。結衣さんがかわいそうだよ」
「智奈美、お前が出しゃばると余計にややこしくなる。奏と菜生ちゃんの指をよく見てみろ」
健さんの一喝に智奈美は口を尖らせながら、私と奏の指輪を見つけ、焦って結衣さんを見つめていた。