大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
えっえっとこちら側とあちら側を交互に見る智奈美の肩を、健さんが落ち着くように抱いた。
「あのさ、何を勘違いしていたか知らないけど、智奈美ちゃんの知り合いだから、優しく接してただけで、あんたに恋愛感情なんてないけど」
「そんな…あんまりです。何度もお食事に行きましたし、電話にも出てくださって、待ち合わせして何度もデートをしてましたわ。私達、お付き合いしてるとばかり思ってました。女性達との別れ話も私の為だったのではないのですか?そちらの菜生さんとはまだ続いてらっしゃるようですが、いずれお別れするものだと耐えていました。両家で私達の結婚話も出ていますのよ…」
奏にちらついていた相手が、今、目の前にいて、本命は自分だと自信に満ちた表情をしている結衣さんに嫉妬し、かなりのショックを受けている。
奏に肩を抱かれていても…
彼女だと言ってくれても…
私には確かな言葉もないし、思わせぶりな態度と指輪しかなくて、私を睨むように目を向ける結衣さんと対決するほど、愛されている自信がなく、肩を抱く奏の手を振りほどこうとした。
「…離して」
「離すかよ…俺とこの女の言ってる事と、どっちを信じるんだ?」
奏を信じたいけど、信じるには足りないものがあると気がついてほしい。