大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「やっぱり、あんたか!」
奏の怒りをにじませた大きな声に、智奈美はなんのことかわからない様子。
私は、まさかこの人が…と体が震えていた。
そんな私の体を背後から抱きしめる腕と声に、安心する。
耳元で
『俺がいるから大丈夫だ』
それだけで、彼女と立ち向かう勇気が出てくる。
「懲らしめるって何の事ですか?」
「あら、あれだけして差し上げたのにわからないなんて、足りなかったのかしら?」
頬に人差し指を添え意地悪な笑みを浮かべる彼女に(やはり)と確信した。
「気味が悪い手紙のことですか?」
「気味が悪いなんて失礼ね。あれはご忠告ですわ。それなのに、いつまでも奏さんから離れようとしないんですもの。写真に八つ当たりしてポストの中入れて差し上げても、あなたは無視し続けて、だから私、あなたの部屋のドアに沢山切り刻んで張ってあげましたわ」
うふふと、高笑いする結衣さんの姿に、智奈美は驚きで蒼白になり倒れかける。その彼女を抱きとめたのは、言うまでもなく健さんで、智奈美は健さんの胸に顔を埋め震えていた。
多分、声を抑えて泣いているのだろう。
私は、ぎゅっと下唇を噛み、あの恐怖心を振り払った。