大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

長々と話した結衣さんは、自分が被害者のように振る舞う。

「思い出してくださったなら、今回の件は水に流して差し上げます。さぁ、奏さん…」

奏の横に立った結衣さんは、気味の悪いほど笑顔を浮かべ自分が選ばれるといまだに信じている様子に、彼女と噛み合わない会話にどう立ち向かえばいいのかわからなくなる。

「思い出に浸って語ってくれたけど、そのパーティー、俺、出てないわ」

「嘘をおっしゃらないでください。私、近くの方にちゃんと聞いましたわ。斎藤様のご子息だと…」

「それ多分兄貴…双子に間違われるぐらい似てる。だけど…残念ながら高須のお嬢さんとそこで運命的出会いをして結婚したよ」

「そんな…嘘よ。あれは奏さんでしたわ」

「三年前の高須のパーティーには、奏は出てないよ。俺が証人する…確か、智奈美と菜生ちゃんの成人式の日だったよな。その日、奏に運転手してもらったから覚えてる」

「えっ、あの無愛想な運転手、奏だったの?」

「そうなんだ。ちなをカッコよくエスコートしたくて、運転手付きの車レンタルしたんだよね。奏ん家の車だけどさ」

確か、凄く豪華な車内だったのは覚えてるんだけど、あの時は健さんに一目惚れして他に目が向いていなかった。
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