大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
思い出して辛いだろうに、女に立ち向かう菜生は気丈に振る舞い、彼女の新たな一面に惚れ直すほどだった。
「そんな事をしても、私の気持ちは変わらないし、奏だって、そんなあなたに心惹かれるはずない」
俺が何を言っても聞く耳を持たなかった女は、菜生の声に動揺しだし、ぶつぶつと爪を噛みながら
菜生と俺が出会いさえしなければ、自分が俺と結婚していたと言い出す。
ひどい妄想に…どこかイカれてるんじゃないのかと言いそうになった俺を止めたのは、妄想に取り憑かれている女だった。
「そうよ…奏さん、私達の素晴らしい出会いを思い出してください。三年前の運命的な出会い、高須様のガーデンパーティーで突然雨が降ってきて、びしょ濡れにならないようにと私に奏さんが着てらしたジャケットをかけてくださって、屋根のある場所まで一緒に手を繋いで走ってくださったあの日を…」
また、ひどい妄想だと思いながら、その日は確か…と思い出して思い出し記憶を懐かしんでいたら、そんなはずはないと叫び出す女に、兄が脳裏に浮かんだ。
そして、健が智奈美ちゃんの成人式の日だったと言い出す。
…健の運転手をさせられたあの日…そこで、菜生に一目惚れしたんだよな…