大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「背後に立たれると邪魔だってば…」
「邪魔ってなんだよ…」
ご機嫌斜めになるとわかっていても、言ってしまう。
「料理できない。卵焼き焦げていいなら立ってれば!」
奏の大好きな甘めの卵焼きをちらつかせれば、渋々顔で離れてくれる。
コーヒマシーンから、出来たてのコーヒーをマグカップに注ぎ一口口をつけると、目が覚めてくるのか頭をかきながら着替えに寝室の奥にあるクローゼットに向かった男が、ワイシャツに、ネクタイを軽く結びででくるスーツ姿に見惚れてしまうのは、惚れているからだろう。
相変わらず、見た目だけはいいんだから…
「なに?見惚れる?」
図星を突かれ
「まさか」
素直になれないのは、相変わらず。
毎日、『ドキドキさせられてるわ』なんて言ったら、憎らしいぐらいニヤッと笑い調子にのるのが目に見えているから、絶対言わない。
そんな私に向かって、
「俺は毎日、朝の菜生のスッピンに欲情してるのに、相変わらずつれない奴」
「バカ、朝から何言ってるのよ」
恥ずかしい事を平気でさらりと言い、奏は食卓についた。
一緒に住む前は、絶対すっぴんなんて見せれないと思っていたのに、慣れとは恐ろしいもので、今では向かい合って食事をしている。