大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「なら、奏も気をつけてね。バイバイ」
駅下の地下道を通って、反対方向に家がある私は、奏を置いて地下道に歩いて行く。
それなのに、一緒に隣を歩く男。
「奏の家、向こうじゃない?」
小高い丘にある高いマンション群を指差した。
「…送ってく」
「反対方向だし、いいよ。気持ちだけもらっておく」
2人きりは、気まずいから丁寧にお断り。
「送って行くって言ってるだろ。つべこべ言わずに送らせろ」
「暴君かよ」
「他の女なら、喜んでるのに、お前だけは喜ばないのな⁈」
うん、ちっとも嬉しくないもん。
大人だから、そこは心に留めておく。
「あら、それは失礼しました。声をかければそこら辺に送られたい願望の女子いるんじゃないの?」
「興味ない」
話しながらだったせいか、最後の階段を踏み外しそうになる体を、奏が支えてくれる。
「おい、気をつけろよ。鈍臭い奴…」
いらない一言にムッとなるけど、助けてくれたから一応お礼を言う。
「…ありがとう?」
隣で、なぜか手のひらを見せる奏?
「なに?」
「転ばないように、手を繋いでやるって言ってるんだけど」
「いや、いい」
全力で否定する。