大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
ムッとなる奏だったが、私の手を無理やり繋いで歩き出した。
「…一人で歩けるんだけど」
「ふらついてる」
「そんなに飲んでないよ」
「いいから、黙って歩け」
少し前を歩く奏の横顔は、不機嫌な気がした。
だから、これ以上気まずくなるのもどうかと思って黙って繋がれて歩く。
男の人とこうして手を繋ぐなんて、学生時の彼氏以来だと昔の彼氏を思い出していた。
優しくていい人だったんだけど、押しが弱くて、いつもこちらの都合ばかり気にする人だった。
奏みたいに、少しはグイグイと行動力のある人なら続いていたかな?
続いていたら、叶わない片思いなんてしなかったかな…
続いていても、きっと、気持ちは健さんに向いていたと結論が出てしまう。
あーぁ、もう手の届かない人なのに、未練がましいな…
「おい、菜生…着いたぞ」
アパート前に着いた事にも気がつかずに、どれだけ、考え事をして歩いていたのだろう⁈
「…あ、送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
て、言ってるのに繋いだ手は離れない。
「なに?まだ何かある?」
「おおありだ、馬鹿女…まだ、忘れられないのか?」
「えっ、何が?」
「健の事だよ。ボーと考え事してただろ!」