大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
チュッと私の頬にキスして、両手に服を抱えた奏は、今度こそ浴室に消えた。
奏の唇が触れた箇所だけ、ジンジンと熱をもつ。
あの男は私に何したの?
ボー然として、しばらく理解できずにいたら、奏が出てきてハッとする。
「飲み物、インスタントコーヒーでいい?」
「サンキュー」
なぜだか、ご機嫌の様子で隣に立ち、お皿やマグカップを運んでくれた。
「いただきまーす」
「どうぞ」
ホットサンドを口の中一杯にして、もごもごしながら「うばい」と言って、次のホットサンドに手を伸ばす奏。
「美味い」でしょ…とツッコミを入れながら嬉しくなる。
「私の半分食べてもいいよ」
嬉しそうに、私からの半分も完食してしまった。
そして、ちらっとスマホの画面を見た後、私を見る奏。
帰るタイミングを見計らっているのだと思った。
「食べたなら帰って…私、いろいろすることあるし忙しいの」
目の前の空になったお皿とマグカップを持って、キッチンに立った。
「あぁ…悪い。ごちそうさま…じゃあ、行くわ……」
奏に背を向けて食器を洗い、ドアが閉まるのを待った。
呆気ない別れは、私達の関係にぴったりなのに、意味のない頬へのキスの感触は、夜まで残っていた。