大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

追い出そうとする手を両手で拘束したら、戸惑っていた。

「離してよ」

「…抱かせろ」

つい出た本音に、菜生のためらいがみえた。

「ななせ、まだ、慰めてほしいんだろう!」

そして、何かを言う前に唇を塞ぎ、キスしているのは昔の男でも、健でもないこの俺だとわかってほしくて、丹念にキスを深め記憶に残るキスをする。

「また、慰めてくれる?」

まだ、健を忘れられないでいるなら、それでも今はいい。

「そう言ってる。つべこべ言わず抱かれろ」

俺に抱かれている時だけでも、俺でいっぱいになってくれ…

菜生から香る香りは、俺を狂わせる。

吸いつきたくなる白い肌に、甘い香りは、今まで他の誰にもつけた事のないマーキングを誘う。

「…んっ、…痛いってば。何つけてるの!痕になる」

「虫よけ」

「彼氏でもないのに、つけないでよ」

「キスマークつけた女なんて、誰も抱かないからな。これでいいんだよ」

プリプリと怒る菜生だが、これでしばらくは他の男に抱かれようと思わないはずだ。

「誰にも抱かれないし」

嘘つけ…俺のいない場所で酔っていたら、他の男に慰めてとお願いするかもしれないのに!

「俺以外な」

誰にも抱かせたくない。

「今はね」

そう言ってろ…
< 55 / 211 >

この作品をシェア

pagetop