大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
恋をすると、人はこうも脆い生き物だったのか?
はっきり拒絶されたわけでもないのに、心がチクンと痛む。
『なら俺も!菜生ちゃんともっと一緒にいたい』
素直にそう言える石黒が羨ましかったし、嫉妬もする。
『それじゃ、俺達4人は次の店に行くんで、気をつけて帰ってください。笹倉さんと栗原さんは、送りオオカミに気をつけてくださいね』
そんな俺に更に追い討ちをかけるごとく、石黒のセリフに菜生が軽蔑の目で俺を見た後、目を逸らしたのだ。
何も言い返せないままチクチクと痛みは増して、心の傷は深くなっていく。体調の悪い優希ちゃんには気がつくくせに、俺が傷ついてる事に気づきもしない菜生に、苛立ったりもしだす。
なんなんだよ…
臣は、ここぞとばかり優希ちゃんを連れ出し居なくなってしまうし、俺と栗原さんは無視されて、臣に振られた笹倉さんと4人で次の店の話。
面白くない!
俺も誘えよ…用事ができたからと言った手前、そう素直に言えないまま、栗原さんを促して帰るしかなかった。
隣に、食べて欲しそうにしている女がいるというのに、まったくその気が起きないのは、菜生のせいだ。
油断ならない石黒といると思うだけで、落ち着かない。
このまま、帰るなんて無理だった。