大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「悪い、後は1人で帰ってくれる?」
「ここで結構です」
案外あっさりとしている女に、「えっ、いいの?」なんて聞いたのは初めてだ。
「見た目と違ってつまんない人で、がっかりです…さようなら」
あーぁ、時間を無駄にしたとぼやきながら帰って行く後ろ姿に、先程までのおしとやかなイメージはどこにもない。
女ってこわ〜
それより菜生だ。
あれ?俺って菜生の連絡先を知らない事に気がついた。
マジかよ…
連絡先なんて聞かなくても女の方から教えてきていたから、気がつかなかった。
それなりの長い付き合いなのに、ここでも、菜生の中では俺の存在価値が低かった事を教えられ凹んでしまう。
クソ…今までの自分を殴ってやりたい気分だった。
石黒だ…奴に電話をかけるが繋がらない。終いには電源が切れているとか電波の届かないとかアナウンスが流れる。
絶対、切りやがったな。
湯川にかけるも繋がらないが、折り返しのメールがきた。
『菜生さん、石黒にわりと強い酒飲まされてても気がついてませんよ』
ワンコ系男子を装って油断させ、ほろ酔いの女をものにするあいつのいつも手だ。
『どこだ?…今から行く』
『さっきの店の三軒隣のバーです』