大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
ハイヒールのかかとが、石黒の脛にヒットする。
『「ざまあみろ」』
菜生と2人でハモり、お互いに笑った。
「菜生、帰るぞ」
「うん」
思わず、手を差し出すと酔っている菜生はニコニコと手を繋いでくれた。
それだけで、顔がほころんでしまう。
かわいいやつ…
照れ隠しに、ついまた暴言を吐いてしまった。
「お前、本当に男の見る目がないよな」
「そうだよね…奏でしょ、奏でしょ、で、石黒さん?」
なぜかご機嫌に、反対の手で指を折りながら数える姿が、またかわいいと思っていると、石黒の名前を呼びながら疑問符をつけたように首を傾げた。
「未然に防げたけどな」
本当に、間に合ってよかった。
「えっ、サイテー発言さえなかったら別によかったんだけどな」
おい、こら…
こいつ、かなり酔ってるな!
別によかったってなんだよ…
慰めて欲しいなら、俺がいるだろう。
「お前を慰めていいのは、俺だけでいいんだよ」
つい、自分の口からでたセリフに恥ずかしい思いでいるのに、菜生からの切り返しの反応がなく、無言で俺を見ている。
ヤバイ…変なこと言ったのかと焦ってくる。
だからつい、何か言わなきゃとでた言葉だった。
「てか、いい加減連絡先教えろ」