大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
菜生は、何も言わない。
黙ってしまったのだ。
菜生の家までの道中、お互い一言も会話せずについてしまった。
部屋の前まで送って、菜生が鍵を開けドアを開いたが、菜生の反応が怖くて臆病になっていた俺は、そのまま帰るつもりでいた。
前の自分なら、このまま菜生を抱いていただろうに、自覚してしまうと嫌われるのが怖くて手が出せない。
「…じゃあな」
背を向け、一歩踏み出したら、上着の裾を引っ張られていた。
振り返り、菜生を見ると顔を真っ赤にして俯いている。
「どうした?」
「…帰るの?」
「あぁ…」
裾を掴んだままで、何も言わない菜生に冗談半分で揶揄った。
「なんだよ…慰めて欲しいならそう言えよ」
顔を真っ赤にしたまま、唇を一直線に引き結び何か言うのを躊躇っている様子に、冗談だよと言うつもりで頭を撫でようとした手が止まった。
「キスの続きは…後でって言ったじゃない!してくれないの?」
真っ赤な顔で上目遣いで見ている菜生。
人が我慢していたのに、クソ…
俺の理性を吹っ飛ばすには十分だった。
菜生をドアの内に押し込み、勢いで床に崩れる彼女の上に跨った。
「これからはお前以外の女は抱かない。だからお前もそのつもりで抱かれろ。…健なんて忘れさせてやる」