大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
そして、奏と待ち合わせの日、いつもなら定時で上がっているのに遅くなってしまった。
その理由は、最近社内の男性に声をかけられる率が高いのだ。
更衣室で数日ぶりに優希さんと会い、途中まで一緒に帰ろうとしていたら、待ち伏せしていた男性に声をかけられる。
「伊東さん…」
優希さんは、苦笑して先帰るわと小声で言って行ってしまう。
「あの…俺と付き合ってよ」
会社の外で誰もいない事を確認してからの告白。
「…ごめんなさい」
「前からいいなって思ってたんだけど、最近ますます可愛くなって、みんな伊東さんのこといいって言い出すし、焦って告白してみたけど、…遅い?」
なぜかこういうタイプばかり告白してくる。
でも、ここであえて彼氏がいないなんて言って、面倒になるのは、もううんざりで黙っていた。
数日前にも、彼氏はいないけど付き合えないと言ってしまい、しばらくごねた男性がいたからだ。
『いないなら、付き合ってみてよ』
『気持ちがないのに付き合えないです』
『好きになってもらう自信あるから』
何回も無意味なやりとりをした。
「それじゃ、さようなら」
帰ろうとする腕を掴まれてしまう。