恋の始まりの物語
酔った顔をして、あー、とか言いながら、机に突っ伏す湯川の背中を、私は優しく擦る。

これも、まりあのことを話す時に、ずっとやってたこと。
気分は、小さい子どもを宥めるお母さんだ。

「ここは頑張りどころだよ、湯川。
失恋てさ、凄く辛いのはわかってるよ。

でも私は、もう結婚すると決めたまりあだから、告白すらまりあの重荷になるような気がする。

それでも告白したいって言うなら止めないけど……」

「──お前も、辛かった?」

「え?」

「工藤さんのとき。
──絶対、浮気したろ、あの人」

「──何でわかんのよ」

「あの人、大学のサークルの先輩なんだよ。
大学の時、本当に酷くてさ、最高4股してたんだぜ?

大体、何であの人と付き合ってんだよ。
関わりあった?」

そうなんだビックリ!
あー、話しとけば、付き合わなくて、傷つかなくて済んだかも。
失敗したー!

「─Y社の下請けの話の時、M社と合同チームになったでしょ。
あの時私もチームにいたの。
んで、何故か気に入られて、ものすごい強引に口説かれたんだけど。

結果これだから、笑えるねー!」

屈託なく、笑う。
もう、自分の中で処理はできてる。
副産物は、男性不信だ。
──いや、恋愛拒否だな。

「──強引か。」

「え、何?」

「いんや、何でも。

とにかく俺、お前の言うとおり、もうまりあに告白はしない。
他に目を向ける」

キッパリと宣言した。
< 21 / 43 >

この作品をシェア

pagetop