恋の始まりの物語
軽い下半身の痛みに目を覚ましたのは、まだ暗い早朝だった。

目の前には、湯川。
綺麗な顔で、よく眠っている。
あれだけ何回もやったもんな。サルだな私たち。

──後悔と、自己嫌悪は、多少感じた。
流されて、しまった。

でも。
湯川が、私を好き、とか。
やっぱり、信じられない。

きっと、私とこんなことして、湯川も後悔する。
そして、何だか、後悔している湯川を見たくない。

胸はそこそこデカイけど、ぽっちゃりしてるしゴツいし、ご満足いただける体だとは思えない。

──でも、行為の間。
とても、愛されていた。

私は、そう感じただけで、幸せだった。

工藤さんにつけられた、まだ癒えていなかった傷が、どんどん癒やされたような気がした。

そっか、工藤さんの話を聞いて、慰めてくれたのかも。

──私は、ズルくも、傷心で優しい湯川を利用したことになるのかな。

でも、求めて来たのは向こうだ。
だから、お互い様。お互い癒されて、それで終わりだ。

ぐっすり眠っている湯川を寝室に残し、リビングに脱ぎ散らかされた下着と服を身につけ、置き手紙を置いて、私は湯川の部屋の玄関ドアを開けた。

この部屋には、二度と来れないな。
振り返って、深々と頭を下げる。

お部屋さん、色々ありがとう。
ここは、ほっとする場所でしたよ。

早朝だから、静かに静かにドアを閉めて、鍵をポストに落とす。

ガチャン、という音が響いたけど、私はダッシュで階段を駆け降りた。
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