恋の始まりの物語

始まりは~side 湯川

「─あんた、まりあが好きなんでしょ。」

入社して1年経った頃だろうか。
同期の飲み会で隣に座った山本に、小声で囁かれた。

「女を見る目があるね。」

ニヤリと笑って、山本はジョッキを煽った。
確かに半年くらい前から、柳沢まりあのことを意識していた。

まりあは150㎝くらいで、華奢な子だ。
容姿は地味な感じながら、可愛い感じで整っている。

性格もいい。笑顔が特に可愛く、人のためにくるくる走り回る姿は、小動物のようだ。
周りの先輩や同期には可愛がられ、後輩には慕われている。
密かに、結婚したい男たちには人気がある。

男勝りの山本とはタイプは正反対だが、よくつるんでいて、仲がよさそうだ。

「─何でそう思うんだよ。」

山本は、あっさりした性格で話しやすく、仕事も出来る。
でも、仕事であまり絡みはないから、印象は『いい仲間』これにつきる。

「バレバレだな。目は口ほどにものを言う。」

男口調は、彼女の特徴のひとつ。
この1年で、何回かの同期会でしか会っていないが、いつもこんな感じで、女と話している気がしない。

「安心しなよ、他に気がついてるヤツはいないから。
まりあと話をした時に、時々あんたの名前が上がってさ。
それプラスあんたの視線で確定しただけ。」

枝豆をぽいぽい口に入れながら、種明かしをしてくれる。

「まりあもまんざらでもないんじゃない?
告白してみたら?」

他の同期たちに聞こえないように、小声で話してくれる気遣いを、ありがたく感じた。

その時は仕事に必死で、そんな余裕はないと答えたように思う。
もう少し落ち着いてからと。

ただ、それから頻繁に会い、ちょっとした相談をするようになった。

気を遣った山本が開いてくれたまりあの誕生日会に持っていくプレゼント。

バレンタインのお返し。

話したことに対する受け答えが、まりあの好みかどうか。

色んな話をしたと思う。

更に1年経った頃、山本は仕事が忙しくなった。
新しいプロジェクトに入れられたからだ。

仕事終わりの飲みがなくなり、なかなか直接相談にのってもらえないことが増えた。

今にして思えば、工藤さんと付き合い始めたから、俺と距離を置いた面もあったのだ。
──工藤さんのために。

暫くすると、山本と会って話ができないことに、俺は物凄いストレスを感じ始めていた。

ここで、初めて違和感に気づく。
何で俺は、こんなにイライラしてんだ?
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