恋の始まりの物語
半年以上、まりあネタで話していなかった。
でも、あまりネタがないことに、改めて気付く。

──俺、山本にお膳立てしてもらったの以外、動いてない。

ぼちぼち仕事に慣れて、落ち着いてきたというのに。

別に草食系というわけではない。
好きになったら、自分からアプローチだってする。
……はずだ。
今までは、女の方から言ってきて付き合ったのばかりだが。


待てよ?

ってことは、俺、そんなにまりあのこと好きじゃなかった?

山本に色々話すわりには、自分から何かするという頭は全然なかった。

語弊はあるかもしれないが、アイドルとか女優とかを『可愛い』とか『好き』という感覚に似てないか…?

「…わ、湯川っ!」
「うわっ!」

考え事をしていた俺は、呼ばれていたことに気がつかなかったらしい。
いきなり顔を覗き込まれて、ばっと後ずさる。

「歩きながら寝てんじゃないよ!」
ケラケラ笑いながら、山本が言う。

「どこで飲むよ?リオン?駅前の立ち飲み?」

「あー…、そうだ、俺んち来る?」

何故か、そんなことを口にしていた。

「……えー何でやだよ!散らかってそ!!」

しまった、と思った。
山本が精神的に引いたのが、分かったからだ。

「何だと?!

昨日親父からいいワイン貰ったから、飲ませてやろうかと思ったのに!

もうお前にはやんねー!」

不貞腐れたような口調で、軽く山本を睨む。

ぶはっと吹き出した山本は、ひとしきり笑ってから『ごめん』と言った。

「今日はチューハイの気分だよ!
また今度ご馳走してくれ!」

「あーはいはい」


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