私の好きな人
彩月の顔さえ見れなくて
俺は逃げた
水槽トンネルになってるエスカレーターを一気に駆け上がる
俺の名前を呼ぶ彩月の声は、はっきり聞こえた
ごめん彩月…
冷静になりたいんだ
出口の方へと早歩きで向かう
「良平!!」
「良平見てみて!」
「綺麗だよ!良平」
俺の頭の中に彩月の声が連呼する
「うわぁ、見てこれー!すごく綺麗だよ!」
ふいに周りのカップルの会話が聞こえる
彼女だろうか
嬉しそうに話す様子が
彩月とリンクする
女の子は楽しそうに笑顔で話してる
それに応えるように男の子も笑顔で返す
彼氏は……俺とはリンクしない…
その2人を見てるうちに
彩月と小林に見えてくる
彩月には明るくて優しい男が良いに決まってる
俺みたいな無愛想な奴
きっと好きになんかならない…
彩月には………
きっと………
「……っ……むりだ」
小林には渡したくない
誰にも……彩月は渡したくない
俺の足は無意識に戻って行く
もう俺の気持ち
カッコ悪くても伝える
「彩月っ!」
人混みの中、注目されようが構わない
彩月の姿が見えた瞬間、咄嗟に大声で名前を叫んだ
彩月の横には小林がいる
そのことに余計俺の胸は高鳴る
歩く足は早まり
目の前の彩月を強引に抱きしめた