雨に恋するキズナミダ
プロローグ
***
きっかけは猫だった。
土砂降りの雨なんて久しぶりで、憂鬱な気分な春の午後。曇り空のせいで、心なしか暗く感じる通学路。
わたしは傘をさしているのにも関わらず、濡れていく制服が鬱陶しくて早足だった。
でも、その光景が目に飛び込んできて、わたしは足を止めてしまった。
「ごめん……ごめんな!」
黒い傘。桜の木の下で謝り続ける彼の手には子猫が二匹。何に謝っているのか、なぜそんなに後悔しているのかはわからない。
だけど、壊れそうな彼を抱きしめたくなった。
「もう、謝らないで」
驚いた彼の黒い傘が落ちた。
傘に張りついた桜の花びらがすごく綺麗で、見惚れてしまった。
違う。本当は彼の横顔に惚れたんだ。
すごく綺麗な泣き顔が脳裏に焼きついて離れない。
好き。
この感情は、忘れたくなかった……。