雨に恋するキズナミダ


 ・・・


 記憶にない天井があった。
 記憶にあるにおいがした。


 薄暗い。でもまだ日は沈みきっていないことが窓からの微かな明かりでわかった。
 今どこにいるんだろうと起き上がろうとしたら、おでこを手で押さえられた。



「え、え?」

「落ち着いたみたいだな。もう少し寝ておけ」



 手がなくなると、そこに優しく笑う秋くんがいて飛び起きた。



「だから寝ておけって言ったのに……」

「え? どうして? どうして秋くんがいるの! ちょっと待ってよ。わたし何してたっけ……あ、夏海。夏海は? え? ここ、どこ!?」

「稀に見る混乱状態だな。本当に大丈夫か?」



 秋くんひどい。そんなに笑うことないじゃない。
 何が何だかわからなくて当然でしょ。いきなり知らない天井があるんだもの。


 よく見たら病院みたい。もしかして救急車で運ばれたのかな。


 どうして?
 わたし、何をして……?
 そうだ。女の人が殴られて、びっくりして。わたし、倒れた?

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