愛があれば、それで
「いい家に住んでますね」



結花が出産した次の日。
『奥さん入院してて大変ですよね?ご飯作りに行きますよ』
そう、電話がきて、俺はまた断ることができなかった。



「そこは……」



俺と結花がいつも一緒に寝ているダブルベッド。
そこに座る彼女に、それ以上何も言えなかった。



「あたしと本田さん、相性よかったと思ったんですけど違いますか?」



不安げに揺れる瞳。



「いや、よかった」



確かに、相性はよかった。
そんな俺の腕を引っ張って、自分の上に跨らせる。

俺の後悔の念なんか、簡単にプツリと切ってくれるこの瞳。
俺はこの瞳を見ると、なぜだか目が離せなくなる。
なぜだか、胸にこみ上げる何かを感じてしまうんだ。


好きだとか、愛してるとか。
そんな感情は一切ない。
そんな感情を持つ相手はただ1人。

でも、そんな感情を持つ相手さえも俺は今日も裏切る。

それから毎日、結花が退院するまで。
産婦人科に行った帰りに関さんを拾って、俺の家にいく。

そして、体を重ねる。
俺の感覚はもう麻痺していた。

好きでもない、愛してもいない。
ただ、少し綺麗でスタイルがよくて、俺のことを好きだと言ってくれる。

彼女との快楽に溺れていた。


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