愛があれば、それで
「え?荒川(あらかわ)?」



入口からこちらに向かって歩いてくるのは、俺たちの高校の同級生である荒川。



「わー、本田くん相変わらずかっこいいね」



ニコニコと笑って、桜木の横の席に座る。



「あ、荒川……なんで……」


「桜木くんから、本田くんが苦しんでるって聞いてね」


「……え?」



俺は横にいる桜木に視線を移す。



「あたし、あのとき自殺したわけじゃないからね?」


「え?」



荒川からでた予想外の言葉に自分の口がぽかんと空いたままになっているのがわかる。



「振られたーって思ってさ。ビルの屋上に叫びにいったの。そしたら、その日台風の日でさ、あたし風に飛ばされて落ちたの」



ふふっと「バカでしょ」と笑う荒川。



「え、まじかよ」



荒川の言葉に自分のなかにずーっと溜まっていたなにかが解かれていく感覚を覚える。



「もうこれでトラウマとはさよならできるんじゃねぇの?」


「桜木、お前わざわざ荒川のこと探してくれたのか?」


「このままじゃいけねぇだろ。いつ離婚されてもおかしくねーよ」



荒川と仲のいいやつと俺らは仲良くもなかったから。
探すのもそう簡単なことではなかったと思う。
命に別状 はなかったけど、そのまま荒川は違う学校に行ってしまったから。

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