愛があれば、それで
「あたしと本田さんが結婚するから、風音ちゃんも引き取ろうとしただけよ」


「はぁ?」



桜木さんの低音ボイスが廊下に響く。



「お前さマジでふざけんなよ?黙って聞いてりゃなんなんだよ。そんなに結花ちなんのこと傷つけて楽しいかよ!」



菜美の肩を掴んで壁に押し付ける。



「ちょ、痛い」


「女だからって何もされねぇと思うなよ?俺だってただの優しい男なんかじゃねぇんだよ。ムカついてムカついてどうしようもなくなってんだよ、イラついてんだよ!」



そのまま、菜美の頭を壁に押し付けた。



「痛い……」


「痛い?結花ちゃんの心の傷に比べたらお前の痛みなんで大したことじゃないだろうに」



かわいた笑いで、菜美のことを睨みつける。



「おい、桜木。その辺にしとけよ、怪我されたら大変だよ」



桜木さんの手を菜美から離す。



「本田さん、助けてくれるなんてやっぱりあたしたち……「勘違いしないでほしい。いまのは君をまもったわけじゃない。こいつの手を関さんなんかで汚して欲しくなかったからだ」



キラキラしていた菜美の目から輝きが失われた。

それにざまぁみろと思ったあたしはもう、彼女と友達に戻れることはないだろう。
< 54 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop