[完結] 妄想女子
音符の味
キスって、どんな味だろ。

音符って、どんな味だろ。

いつしか、そんな疑問を持っていた。





ザワザワ。

会場内には人が集まり、騒がしくなっていた。

「次は、吹奏楽の発表です。準備にお時間がかかりますので、

今しばらく、お待ちください」

場内アナウンスが流れる。

同じ部活の人達が、着々と準備をしていく。

「おい、凛音。俺らも上、行くぞ」

「あ、うんっ」

私の隣を歩くのは、槻木 新くん。

実は、彼も私と同じ吹奏楽部で、

今日は、文化祭なの。

だけど、私と新くんは楽器担当じゃない。

見張り担当を任されている。

見張りといっても、みんながちゃんと出来てるかって

いうのを確認するだけ。

どこかに悪い点があれば、それを反省して

次に繋げていく。

二年の先輩によると、一年生にはよく任される仕事なんだそう。

楽器担当じゃなかったことは悔やんでるけど、

この仕事も嫌いじゃない。

練習ではいつも場内を暗くしていて、

そのなかで照明に照らされて、キラキラと輝く楽器が好きだから。

そして、その楽器たちが織り成す演奏が好きだから。

だから、今日もその楽器たちが見れること、音色が聞けられることに

ワクワクしている。

「なぁ、凛音。本番って、いつからだっけ?」

「えーと。確か、四十分からだったと思う」

「まだ時間あるのか」

「うん。十分はあるね」

今年の春に出会ったばかりなのに、新くんとは話が弾む。

吹奏楽部はチームワークだけじゃなくて、コミュニケーションも大事だ

って先生が言って、たまに話してたからかな。

「音符ってさ、どんな味なんだろな」

誰もいない放送室前の通路。新くんがぼそっと呟いた。

場内は騒がしいけれど、その言葉は私の耳に入った。

まるで、二人だけの世界。

「一度だけ、食べてみたいよな。音符」

「なにそれ」

なんて笑いながら返すけど、実際は私も気になっている。

吹奏楽部だからなのか、理由は分からないけど、

ある日を境に、気になり始めた。

音符の味。

その数日後、私はキスの味も気になった。

二つとも、どんな味なんだろ。

でも、まだ分からない。
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