[完結] 妄想女子
「いや、ホントに食べてみたいって思うんだよ。

楽器を見たり、触ったりしてると気になるんだ」

無言で、真剣な彼を見つめた。

だけど、恥ずかしくて、すぐに目をそらした。

実は私、新くんに片思いをしているの。

誰にも言ってなくて、私だけの秘密。

片思いのキッカケも、誰にも話していない。

もちろん、新くんも知らない。

「だいぶ、静かになってきたな。あと五分か」

頭上にある時計を確認しながら、そう言った新くん。

仕草も言葉も好き。新くんの全部が好き。

この気持ち、新くんに伝えたい。

でも、奥手な私だから、告白なんてできない。

それに。新くんは、女子にモテる。

顔も性格もいいし、成績優秀。

休み時間になると、新くんを中心にして女子たちが集う。

女子の視線が怖いから、普段は関わらないけれど

今、こうして関わっていることが嬉しい。

会話したり、隣にいたり。

同じ部活で良かった。

しみじみと思ったその直後。

「これより、吹奏楽部の発表を行います。

今年、入部した一年生や今年、卒業する三年生と共に

素敵な演奏を奏でます。それではどうぞ」

と場内アナウンスが流れ、舞台にライトが当てられる。

そこには、十数人の生徒と一人の先生。

そして、黄金色に煌めく楽器たち。

「星空みたい」

「そうだな」

ボソリと言った一言に、新くんがそっと返してくれる。

それが心に染みて、温かくて、心地好くて。

来年も、再来年も、この先も。

キミの隣にいられたらいいな。

改めて、好きだと感じた。
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