王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
確かにダルトン伯爵家の領地・アンスリナは貧しい土地だ。それはオリヴィアも弁論しようがない。

しかしメリーアンの言い方では、領地を馬鹿にされているようにしか思えない。

少し腹立ちながらも、オリヴィアは「我が領地をご存知なのですね」と冷静に言うのがやっとだった。


「ええ、勿論ですわ。あの土地は我が国とこの国の国境の地。知らぬ者はいないでしょう。国境の貧相なあの地のことを」

「ならばご存知のはずです。あの地は確かに作物は育ちにくいですが、ただひとつ、とても美しい森があることも」


そしてその中に綺麗な泉があることを、メリーアンも存じているはずだとオリヴィアは信じて疑わなかった。

領民達の住む土地や畑で育つ作物は他の地に誇れるようなものではない。何か他に産業があるわけでもない。

それでも、沢山の木々が生い茂り、無数の草花が大地を包み込むあの美しい森は唯一無二の領地の宝なのだ。

あの美しい景色はきっとこの国のどこにもない。


「確かにありますわね。ただ鬱蒼と生い茂っているだけの暗い雑木林が。手入れも行き届いていなくて、雑然としていて、誰の目にも止まらない」


オリヴィアだけではない、領民達も大切に思っている美しい森をこんな風に罵倒されて怒らずにいられる人がいるのだろうか。

少なくともオリヴィアは違った。オリヴィアは腹が立っていた。

しかしここは王城で、相手は西の国のメリーアン王女。そしてオリヴィアは愛する故郷へ帰るためにも彼女におもてなしをしなければならない。

すなわち、怒りをぶちまけるわけにはいかないのだ。


「その目は、何か仰りたいことがおありかしら、オリヴィア嬢。とても反抗的な目ですわね」


反論できず黙るしかないオリヴィアを見て、更にメリーアン王女は言葉を荒くした。


「いえ、そのようなつもりは…」

「育ちは周りの影響によると言いますが、本当にその通りですわね」

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