王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「えっ、お嬢!? どこに行くつもりだよ!?」

「自分の屋敷よ。私はこの領地を治める立場にあるの。領地の被害状況は、私が把握しなきゃ」


領地の森が、屋敷が、突然燃えて消えた悲しみが心を抉る。けれどだからといって泣いている場合ではない。

今、大好きなこの地で自分が立たなければならないのだ。そうだ、強くあれと自分に言い聞かせる。


アーノルドだってアンスリナで山火事があったと連絡を受けたときに、とても冷静に対処していたではないか。

そうだ、あんな風になるんだ。


「お嬢、危険だ! やめた方がいい!」

「危険も知っているわ! でも今私が動かなきゃいけないの。私はこの領地の人々を守る!」


それでも「お嬢!」とレオは両手でオリヴィアを引き止めた。


「屋敷は危険だ。さっき消火が終わったばっかりで、安全じゃない。分かるだろ、お嬢。落ち着けよ!」

「レオ、お願い。止めないで」

「お嬢!」

「私が屋敷を見に行っている少しの間だけ、領民の皆のこと、お願い」


それだけ言い残すと、オリヴィアはレオの手を振り切って走り出した。


「お嬢!」


レオの声がこだまするけれど振り返らなかった。


分かっている、本当は今オリヴィアが屋敷に直接足を運ぶ必要は無いことを。

それでも行かずにはいられなかった。この目で見なければ気が治まらなかったのだ。


領民達の居住地から屋敷へと続く道は広く、木々が植えられて木漏れ日をつくり、季節の花々が彩りを与えてくれた。

でも今は木々は黒く焦げ、花は色褪せ朽ちている。見ているだけで心が痛んだ。

屋敷に近づくほど燃えた後は酷くなる。

それに気付いた頃には屋敷の玄関まで辿り着いていた。
< 124 / 143 >

この作品をシェア

pagetop