王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
オリヴィアの名前を呼んだのは、長年王宮に仕えているらしい落ち着いた老年の男性だった。

黒い燕尾服を着た彼は老眼鏡をかけているものの、美しく無駄のない動きでゆったりと頭を下げる。

オリヴィアもできる限りの美しい挨拶をして見せると、彼は朗らかに笑って「殿下がお待ちしております」と案内してくれた。

付き添いのメイは他の部屋で待機するらしく、オリヴィアたった一人で王太子が待つという応接間に向かうことになった。その途中もオリヴィアは王宮の豪華絢爛さに圧倒されていた。

応接間に向かう回廊にはいくつもの窓があり、そこから差し込む光が豪華な回廊の赤い絨毯を照らす。細長い窓の上部は優雅な半円の形をしており何とも優美な形で、それは回廊の天井も同じだった。

弧を描いて丸みを帯びた天井の中央には水晶でできているらしい豪華なシャンデリアが等間隔にいくつも飾られており、日の光を乱反射させながら輝いている。

白を基調とした壁には黄金で描かれた花や幾何学模様がいくつもあしらわれており、それがいかに上質なものであるか、一目見ただけでもよく分かった。

この世の豪華絢爛が集められたような王城に自分がいるのだと思うと、まるで夢でも見ているような感覚がする。

窓の外には庭園があるらしく、季節の花々が植えられて美しく咲き乱れているけれども、やはり領地で咲いている花の方が美しいような気がした。

今日ここに来たばかりなのに、もう領地が恋しい。オリヴィアの頭には領地アンスリナの美しい自然の景色がいくつもいくつも浮かんでいた。


「こちらにございます」


老年の男性が頭を下げてオリヴィアのために扉を開けた。

そこに広がる世界にオリヴィアは目を奪われた。

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