王太子殿下の花嫁なんてお断りです！

「お嬢様……」

「こうなったら、落ち込んでなんていられない。領地に戻るという目標があるのだから、そのために行動あるのみよ！」


それから誰よりも哀しそうな顔をするメイの頬にそっと手を添えた。


「だからね、メイ。

貴女がそんな顔をしないで？」


オリヴィアが笑いかけても、メイは笑わなかった。誰よりも哀しそうな顔をして「お嬢様……」とオリヴィアの未来を嘆く。

つまるところメイは優しい。優しすぎるのだ。

だからこそ彼女には笑顔でいてほしい。だからこそ彼女には心配をかけたくない。

そう願うのに、いつも上手くいかない。

どうやったら笑顔になってくれるのだろう。オリヴィアが頭を悩ませるけれど、今日はもう疲れてしまった。


「もう今日は休みましょう、メイ。疲れただろうから、ゆっくり休んでね」

「え、ええ……。お嬢様もどうかゆっくり休んでください」

「ありがとう」


メイは相変わらず眉を下げて悲しそうな表情をしている。

どうか明日こそはメイが笑顔になれるようにと、オリヴィアは願わずにはいられなかった。


翌日、オリヴィアの部屋の扉をノックする音が聞こえた。オリヴィアが返事をすると、それは王宮侍女だった。


「失礼致します、オリヴィア様。ダルトン伯爵様がお越しになっております。ぜひオリヴィア様にお会いしたいと仰られています」


頭を下げた王宮侍女は、淡々と要件を告げる。それを聞いたオリヴィアとメイは顔を見合わせた。


「ええと、父上が、ここにいらしておいでなのですか？」

「左様にございます。応接間にいらっしゃいますので、ご案内致します」


思わず聞き返してしまうが、王宮侍女は冷静にオリヴィアを促す。本当は父であるダルトン伯爵になど会いたくもないのだけど、これは逃げられそうにない。

覚悟を決めたオリヴィアは一つ深呼吸をして「承知しました」と返事をする。

それから不安そうな顔をするメイを安心させるように微笑みかけて、部屋を後にした。