王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
ダルトン伯爵がいるという応接間に案内されたオリヴィアは、父との再会を果たした。伯爵は高級な長椅子にゆったりと腰をかけており、入室したオリヴィアに気が付くと顔を向けて穏やかに微笑む。


「やあ、オリヴィア」

「こんにちは、父上」


まさか王宮で父親と再会するなど想像すらしていなかったオリヴィアは少し緊張をしているが、父はこのような場に慣れているらしくいつも通りに見えた。

オリヴィアが向かいの長椅子に座ると、伯爵は微笑んだまま話を始めた。


「すまないな、呼び出してしまって。たまたま仕事で王宮に来たのだが、その時に殿下とお前の見合いが終わったと聞いてな」


大方そうだろうとはオリヴィアも想定していた。見合いの結果が気になって仕方がないのだろう。

オリヴィアは顔色を変えずに「こちらからも連絡をするつもりでした」と言った。


「そうか。それで、どうなった」

「それが__」


その時応接間の扉がバン、と荒々しく開いた。

伯爵もオリヴィアも警戒しながらそちらに目を向けると、そこには少し息を切らしたアーノルドがいた。


「失礼する、ダルトン伯爵」


美しいその笑みを向けられた伯爵は驚きを隠せず口を開けたままだが、はっと我に返って「いえ」と頭を下げる。


「伯爵がいらしていると聞き、直接話しをしようと思ってね。慌てて来たのだけど、間に合ったようで良かった」


にっこりと微笑むアーノルドは一瞬だけオリヴィアに目を向けた。

表情こそ春の陽だまりのような微笑みなのに、その視線だけは冬の凍った河のように鋭く冷たい。何も言うなと言われているようで、オリヴィアは制裁を恐れておとなしく口を噤むことにした。

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