王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
玄関口からは門が見え、多くの兵隊が列をなしてディアナを迎えようとしている。
するとアーノルドはようやくオリヴィアの腕を離し、オリヴィアはようやく深く息ができた。
速く肩を上下させて息を整えるオリヴィアを見たアーノルドは腕を組んで目を細めながら、「これくらいのことで息を切らしてしまうんだな」と鼻で笑った。
「少し驚いた。田舎育ちというから体力には自信があるのかと思っていたが」
何という侮辱だろうか。オリヴィアはキッとアーノルドを睨みつけながら、「殿下はさすがに体力がおありなのですね」と息も絶え絶えに答えるので精一杯だった。
田舎育ちのオリヴィアは幼い頃から山を駆け回っていたこともあって、体調不良に陥ることはほとんどなかった。他の貴族の娘よりもずっと体力があり、それを少し自信にしていたところもあったのだが、やはり男性であるアーノルドと同等と言えるほどにはなかった。
「お、姉上のお出ましだ」
アーノルドは独り言のように呟くと姿勢を正して口元に微笑みを携える。それを見て、オリヴィアも慌てて姿勢を整えた。
王城を隔てる門がゆっくりと開き、豪華な装飾の施された白い車を引く馬が入ってくる。兵達は音を立てるように一斉に敬礼をし、馬車を迎え入れた。
兵達が敬礼をする中を通り抜けた馬車は、オリヴィア達がいるところへと向かうと横付けしようやく止まった。
馬借が下りて、白い車の扉を開ける。
その車からゆったりとした美しい所作で降り立ったのは、赤いドレスを身にまとった麗人。アーノルドの姉、ディアナだった。
「ありがとう」
彼女は馬借に笑顔でそう告げると、アーノルドの顔を見てふわりと笑った。
「ご機嫌よう、アーノルド」