王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「ご機嫌麗しゅう、姉上。お変わりないようで」

「ええ、アーノルドもね」


王太子然と振舞うアーノルドは、老若男女を惑わすあの人柄の良い笑みを浮かべている。それに気づいているのか、いないのか、ディアナは花が綻ぶように微笑みかける。


「姉上、こちらにお帰りの際には事前に連絡してくださいとあれほど申し上げたはずです。事前に連絡していただければ姉上の警護も万全を期すことができるのですよ」

「その点は心配いらなくってよ、アーノルド。西の国からここへ来るのには国境のアンスリナの地を経由しているわ。狙われる心配は皆無だと思うのだけど」

「いいえ、そんなことはございません。万が一があっては困るのです」

「アーノルドはいつまでたっても心配性ね」

「当然です。貴方はこの国の姫君であり、西の国の王妃でもあらせられるのですから」


少し呆れを滲ませるアーノルドに、ディアナは茶目っ気たっぷりに笑って見せる。

いつも自分を振り回すアーノルドが振り回されているのを見るのはなんだか新鮮だとオリヴィアは思った。

そしてディアナはアーノルドの隣にいるオリヴィアに気付いて「あら」と声をかけた。


「とても美しい方ね、アーノルド」

「彼女はダルトン伯爵家令嬢、オリヴィア嬢です」

「お初にお目にかかります、ディアナ殿下。オリヴィア・ダルトンにございます」


オリヴィアはスカートを持ち上げて会釈をする。それを見たディアナはやはり朗らかに微笑む。


「オリヴィア嬢ね、初めまして。ディアナです」


それからディアナは「それで?」とアーノルドに視線を向ける。


「どういうことか説明してもらいたいわ、アーノルド。こんなにも美しいご令嬢を引き連れてわたくしを出迎えるなんて、今までにないことよ」


目を細めてにやりと笑う、その表情は悪戯を楽しむ少年のそれと同じだった。

オリヴィアは緊張で冷や汗をかくが、アーノルドは何も気にしていない様子で目を細めて微笑む。


「そのことにつきましては、姉上。後ほど説明致します」
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