王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
それから姉弟はそろって城の中へと歩き出すので、オリヴィアはその後ろを慌ててついて行く。


「ええ、とても楽しみにしているわ」

「長旅でお疲れになったことでしょう。いかがです、お茶でもご一緒しませんか?」

「喜んで。せっかく城にやって来たのですもの、アーノルドとお茶をするのをとても楽しみにしていたのよ?」

「姉上にそう言っていただけるとは光栄です」

「まあ、相変わらずアーノルドは仰々しいんだから」

仲睦まじく姉弟水入らずの会話をしているとオリヴィアが思って半分聞き流しながら歩いていると、急にディアナ王女が振り返ってオリヴィアに微笑む。

その不意打ちにオリヴィアの心臓はどくんと跳ね息が止まった。


「ぜひ、貴女もご一緒しましょうね。オリヴィア嬢」

「え、ええ」


引きつる笑顔で何とか目を細め、愛想よく返事をする。

それを見たアーノルドが吹き出して笑いだしそうになっているのを、オリヴィアは見逃しはしなかった。

二人がどこに向かって歩いているのかと不思議に思いながら後ろを歩いていると、二人は不意に足を止めた。

そこは一段と豪華な階段が鎮座する階段の前だった。奥に伸びる階段は途中で二手に分かれ、正面には現国王の特大肖像画が飾られている。大理石で作られた輝くその階段の上には重厚な赤い絨毯が敷かれ、複数の衛兵が警備を続けている。

どうやらこの先がディアナの私室らしい。オリヴィアは、自分の身分ではここまでしか来れないのだろうと薄っすら思った。


「部屋まで送ってくれてありがとう、アーノルド」

「いえいえ、これくらい何でもありません」


アーノルドはゆったりと微笑み頭を下げる。それは貴公子のそれと同じで、オリヴィアはやっぱり嘘くさいとこっそり溜め息を吐き出した。


「では、後ほど会いましょうね」


ディアナの微笑みに、アーノルドは頭を下げる。オリヴィアもスカートの裾を掴んで頭を下げた。

それを見たディアナはにこりと笑って階段を上り私室へと向かった。

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