王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
ディアナの姿が完全に消えた途端、アーノルドの表情は穏やかなものから真顔へと変化した。

やはりこの男の笑顔は作り物だったとオリヴィアはさらに呆れてしまった。

実の姉に対してまでこんな作り物の笑顔を見せるなんて薄情な。

そうは思うものの、自分も父親との関係においては友好なものではないことを思い出して、人のことは言えなかった。

オリヴィアに与えられた部屋へと向かう中、オリヴィアはアーノルドに問いかけた。


「……アーノルド様」


オリヴィアが名前を呼ぶと、「なんだ」とアーノルドがオリヴィアを見つめた。


「ディアナ様が先ほど仰られたお茶会は、本当に私も参加してもよろしいのですか?」


この国の王女であり、西の国の王妃であるディアナと、一介の伯爵令嬢がお茶をするなど、そんなことがあってもよいのだろうかとオリヴィアは半ば信じられず、恐れ多い気持ちでいたのだ。

アーノルドは顎に手を当てて考えながら答えた。


「姉上が話をしたいと仰っていたのは、おそらく俺ではない。少なくともお前を見た時から、姉上の興味の的はお前だ、オリヴィア」

「わ、私、ですか?」

「ああ、そうだ。お前と話をしなければ姉上は満足しないだろう」


至極当然と言わんばかりの表情をしているアーノルドだが、オリヴィアにはとても信じられないことだった。

呆然とする様子を隠さないオリヴィアに、アーノルドはふっと笑いかけた。


「そんなに緊張する必要はない。姉上は別にお前を取って喰おうとしているわけではないのだから」

「しかし……」

「それにお前はダルトン伯爵家の令嬢。隣接する西の国の王妃との対談は不思議でもなんでもない」

「それはそうかもしれませんが…」

「心配するな。困ったことがあれば助け船を出してやる」


アーノルドがそんなことを言うので、オリヴィアは目を見開いた。

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