王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「では、また後ほど」


吐き気がするほど綺麗な笑顔を浮かべてアーノルドは目を細める。

オリヴィアは溜め息を吐き出したい気持ちを抑えながら目を瞑って、スカートの裾を持ち上げ挨拶をした。

部屋に入ると、すぐにメイが飛んできてオリヴィアに抱きついた。

「お、お嬢様あ!」

「うわっ、メイ!?」

「メイはっ、メイはっ!」

涙でぐちゃぐちゃに濡らしているメイをべりりと剥がして、オリヴィアはハンカチでメイの涙を拭う。

それでもメイの涙は溢れて止まらない。


「メイは、メイは心配でした~! お嬢様が何時になっても戻って来られないからっ、何か、何かあったんじゃないかと~!そう思ったらメイは、メイは~!」

「ああ、もう、分かったから泣かないで、メイ! 渡しはじめるこの通り無事よ!」

「よがっだ、よがっだでず、あああお嬢様~!」

「分かった、分かったわ。ごめんなさい、心配をかけて」


おんおん泣くメイをなだめながら、オリヴィアは少し溜め息を吐き出した。

メイはとても心配性で、オリヴィアが言った時間に戻らなかったり、何も言わずに出かけたりするとひどく心配するのだ。そして彼女の頭の中でオリヴィアが最悪な事態に巻き込まれたのではないかと考え込んで最後には泣き出す。

以前まではこっそりと屋敷を抜け出して領民の元へ出かけたり、森を散策するのが好きなオリヴィアだったが、メイがいつも泣き出してしまうので、必ず声をかけてから出かけるようになっていた。

今回も父であるダルトン伯爵と会うとメイは知っていたものの、その後ディアナに会ったこともあって、戻って来るのにはかなり時間が経っていた。

そのためメイはオリヴィアのことが心配で心配でしかたがなかったのだろう。

オリヴィアは泣き止まないメイの背中をさすりながら、まずは何から話そうかと考えをめぐらせていた。

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