王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「ええ、そうね。殿下から言っていただけるように、私は行動を起こすわ」


アーノルドはオリヴィアを気に入ったようで手に入れたいと言うけれど、それはオリヴィアの外見を気に入っているだけだとオリヴィアは思っていた。

または、少し変わった性格をもつ令嬢への興味だろう。

つまり、面白がっているだけなのだ。

それは新しい玩具を欲しがる子どもとなんら変わりない。

人形扱いなどごめんだとオリヴィアは強く思った。自分はこうして意志を持って生きているのだから、と。

アーノルドとて、いつの間にか消えた玩具が恋しいとわざわざ探し出すような真似はしないだろう。探さずともすぐに代わりはあてがわれる。そういう世界だ。


「さあ、馬車の場所を探さなくてはね。それに食料を買っていきましょうか」


晴れやかな顔をしたオリヴィアは、市場で店を営む老夫婦に声をかける。

オリヴィアが市場に来た理由は、小さな店が寄せ合い人々の多く集まる市場ならば王城の衛兵たちの目を誤魔化すことができるだろうと考えたことの他に、領地アンスリナへ向かう途中に必要な食料を確保するためだった。


「これ、二つください」

「はいよ、三百グランね」

こんがりと焼き目のついた肉をぎっしり挟んだ美味しそうなパンを二つ買ったオリヴィアは、それを受取り、お金を渡す。

すると優しい笑顔の老婆がゆったりとした口調でオリヴィアに尋ねた。


「お嬢さん、旅行者かい?」

「ええ、そんなところよ。もう帰るところなのだけど」

「そうかい。王都はいいところだ、またいつでもおいで」

「……ありがとう」


目の端にくしゃりと皺を作って微笑む老婆を見て、昨日、王城のテラスで城下を見下ろしていたことを思いだした。

< 62 / 143 >

この作品をシェア

pagetop