王太子殿下の花嫁なんてお断りです!

「殿下は時々王城を抜け出してきてくれてねえ、こんな庶民とも目を見て話しを聞いてくれるのさ。孫たちともよく遊んでくれてねえ。おかげで孫達は王太子殿下が大好きなのさ」


それから孫に目を向け目を細める。

オリヴィアも目を向ける。子ども達の目にも老夫婦の目にも嘘はない。どうやら本当に慕われているらしい。

けれどきっと、あの王太子然とした表の顔に騙されているのだろう。そうに違いないとオリヴィアは思った。

アーノルドの裏の顔は極悪非道で冷徹なのだ。あれこそが王太子殿下の真実。
「殿下は、どんな方なの?」


アーノルドは城下の民にどんな風に思われているのだろう。いや、思わせようとしているのだろう。

そんな考えで問いかけてみれば、老夫婦は目を細めて感慨深そうな顔をした。


「そりゃあ、とても人徳のあるお方だねえ。王城をよく抜け出してユアン様に叱られているけれど、そんなことをしてまで民と関わってくれる。上辺だけじゃない、あの人は民を本当に愛してくれる」

「アーノルド様は、すごく立派になられたよなあ。昔はあんな風じゃなかったのに」


目を閉じて過去を思い出そうとする老爺は顎を触りながら、立派に蓄えられた髭を撫でる。


「昔は違ったの?」

「そうさ。幼いときは体も弱くてよく病気になられていたし、母君を失ってからはディアナ様から片時も離れられなかったなあ」

「そういえばそんな時期もあったねえ。体も弱い上に王妃様を失ったから心配していたけれど、今じゃ立派になられたよ。アーノルド様が居てくださるなら大丈夫だって思えるね」

「ああ、アーノルド様がいてくれるならこの国は安泰さ」

「違いないねえ」


明るい顔をして王太子殿下について語る老夫婦の会話を聞きながら、オリヴィアはなんだか不思議な気持ちになった。

オリヴィアの思い描いているアーノルドの像と民が思うそれは全く異なるのだ。

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