王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
アーノルドは呆れ顔をしていた。伯爵家令嬢の侍女がこんなにも号泣し、主人である令嬢になだめられているなど、想像したこともなかっただろう。


「アーノルド様、お見苦しいお姿をお見せしてしまい申し訳ありません。彼女も反省しております、どうかこの場は収めてはいただけませんか」

「……お前は、この侍女を守ろうとしているのか?」

「ええ、当然です。彼女は、メイは、私の侍女。私を心から支えてくれるたった一人の大切な侍女ですから」


オリヴィアにとってメイとの関わりは主従だけにとどまらない。まるで姉妹のような、親友のような、家族のような、そのような関係なのだ。

どれだけメイが失敗を積み重ねたとしても、その関係は変わることはない。オリヴィアにとって欠かすことのできない大切な存在だ。

それを聞いたアーノルドは、じっと観察するようにオリヴィアを見つめて、「ふうん」と意味ありげに頷いた。


「今回は、お前に免じてこれ以上の追及はしないことにする」


その言葉を聞いたオリヴィアとメイは良かったと安心して表情を綻ばせるが、そんな二人に釘を刺すように、アーノルドは言った。


「ただし、今回のようなことはもう二度と起こすな。オリヴィアはこの国の伯爵家の令嬢であり、俺の婚約者なのだから」

「王太子殿下…。承知致しました。このメイ、命に代えてもお嬢様をお守り致します!」


メイは涙を拭って、アーノルドの目をじっと見つめていた。そこに心配性で気弱な侍女の面影はなかった。

それを見たオリヴィアはなんだかメイを心強く感じて、妹の成長を見守るようなそんな不思議な温かい感情で満たされていく。

メイの真剣な表情を目の当たりにしたアーノルドはふっと笑うと、オリヴィアの名前を呼んだ。


「お前はいい従者を持ったな」


それを聞いたオリヴィアは目を見開いた。
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