王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
感慨深いと言いたそうなその表情に、思わずオリヴィアは「殿下?」と問いかけてしまった。ディアナが今にも涙を溢しそうになっていたからだ。

するとディアナは微笑んで、「そうだったわ」と何かを思い出したらしかった。


「オリヴィア嬢、お菓子はお好き?」

「え、ええ」


突然何を問われたのだろうかと驚きながらオリヴィアが頷くと、ディアナは「良かった」と嬉しそうな顔をする。


「今日はアーノルドに会えると思って、西の国のお菓子を持ってきたの。アーノルドはもういなくなってしまったから、良かったら召し上がって?」


ディアナはオリヴィアの返事を待つこともなく、傍にいた侍女に「すぐに持ってきてくれるかしら?」と頼んでいた。

侍女は返事をすると庭園を後にする。

完全に侍女の姿が見えなくなると、薔薇の園はオリヴィアとディアナの二人きりになってしまった。


「ようやく二人きりになれたわね」


ディアナはそんなことを呟く。どうやら彼女は最初からオリヴィアと二人きりになれる機会を待っていたらしかった。


「ひとつ、オリヴィア嬢に聞きたいことがあるの。あなたがアーノルドのことをどう思う?」

「アーノルド様のことですか?」

「ええ、そうよ。あなたの目には弟はどのように映っているのかしら?」


老若男女に優しく、頼もしく、頭の切れる素敵な紳士ですと、そう答えるのがここでの正解だろう。

しかしオリヴィアはそうは言えなかった。

オリヴィアの頭には、傲慢で我が強く、強引でわがままで女たらしな王太子であるアーノルドが浮かんでくる。

それをそのまま姉であるディアナに言えるはずがなかった。

それにディアナの笑顔は穏やかだがその瞳は全てを見透かされているようにも思えた。

いかにアーノルドとの婚約に関連することであったとしても、西の国の王妃に嘘をつくことはオリヴィアにはできなかった。

黙って視線を彷徨わせるオリヴィアを見たディアナは、ぷっと吹き出して笑った。
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