王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「これは、とても面白いご令嬢ね。あのアーノルドの印象を聞いて、あからさまに嫌な顔をするご令嬢など初めて見たわ」


どうやらオリヴィアはアーノルドが嫌いだと表情に出してしまったらしい。失敗してしまったと悔やむ一方で、愛してやまない弟の婚約者が弟を愛していないことを理解して、どうしてこんなにも笑うことができるだろうかとディアナが不思議でたまらない。

とても理解ができず、オリヴィアが眉間にシワを寄せて考えていると、ディアナは「ごめんなさいね」と笑いすぎたせいで溢れた目尻の涙を拭いながら謝る。


「社交界の白百合。随一の美しさを持つが滅多に現れない幻のご令嬢。西の国とこの国の国境の地・アンスリナを治める領主の娘、オリヴィア嬢の噂は私も知っていたのだけれど、まさかこんなにも面白いお方だとは思わなくて」


ふふふと笑い続けるディアナに、オリヴィアは「申し訳ありません」と肩を縮めて謝るしかできなかった。


「謝ることなど何もないわ。素直なのはとても素敵なこよよ。それに表の顔のアーノルドに惚れて婚約したとしたら、私はとても心配だったの」


「心配、ですか?」


「ええ、そう。オリヴィア嬢も心配で、アーノルドも心配だった。きっとうまくいかないとね。けれど安心したわ。あなたのようにアーノルドの表の顔以外の一面を知っている方がアーノルドの婚約者になったのだと知って」


そう言ってディアナは目を細めて昔を懐かしむように紅茶を啜る。

ディアナの話しぶりから、アーノルドの裏の顔のことを知っていると気づいたオリヴィアは、慎重に言葉を選びながらディアナに問いかけた。


「殿下は、アーノルド様のことを随分と愛していらっしゃるのですね」

「ええ、もちろん。弟を愛さない姉などいないわ」


ふふ、と嬉しそうな顔をしていたディアナはふっと懐かしむような、寂しそうな表情をした。


「あの子、今でこそ王太子然と振る舞っているでしょう? でも昔はあんなに出来た子ではなかったの」


王太子はすごく立派に育った。

そうディアナが語ることは、オリヴィアが市場で民から聞いていたものとよく似ていた。


「私も少し聞きました。なんでも殿下は昔、お体が丈夫ではなかったとか」
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