王太子殿下の花嫁なんてお断りです！

するとユアンは何と言えば良いのか考えるように少し黙ると説明した。


「本日は城に素敵なお客様がいらっしゃるのです」

「素敵な、お客様？」

「ええ、とても、素敵なお客様です」


ユアンは何度も客人のことを素敵だと強調する。

その表現に違和感を感じていたオリヴィアだったが少し考えて思い出した。

素敵なお客様、という言葉は先日のお茶会でディアナが何度も言っていた表現だ。

それに気づいたオリヴィアは堪らずユアンに尋ねた。


「もしかして、ディアナ殿下が仰っていた方ですか？」


するとそれを聞いたユアンは頷いて、それからオリヴィアに耳打ちした。


「どうか、素敵なお客様にはくれぐれもお気を付けて」


それだけを言うと、ユアンはオリヴィアから離れていつものように微笑んだ。


「ユアン、様……？」

「では私はこれで失礼致します、オリヴィア様。後ほど侍女がオリヴィア様の元へ訪れますので、どうかオリヴィア様はご支度をなさってお部屋でおくつろぎください」

「支度、ですか？」


オリヴィアの質問に目を伏せ一礼すると、ユアンは足早にその場を後にする。

メイは呆然と立ちすくむオリヴィアの顔を覗き込むが、オリヴィアはユアンの言葉の意味を考えていた。

素敵なお客様、それはディアナも知る人物。そして城を訪れ、こんなにももてなしをされる人物でもある。

それはおそらく高貴な人物だろうとオリヴィアは思った。

しかしその人物に対して、なぜ気をつけなければならないのか、いくら考えても皆目見当もつかない。

それに、支度を、というのは一体どういうことなのだろう。


「お嬢様、お嬢様！」


メイの呼びかけに気づいたオリヴィアははっと我に返りメイに視点を合わせる。


「メイ、どうしたの？」

「どうしたの、ではありません。お嬢様こそどうなさったのですか？ ユアン様が仰られた通り、王宮侍女の方がいらっしゃるまでお部屋でお待ちしましょう？」